【星熊勇儀】
モノを考えるのは少し苦手だ。頭が痒くなる。とはいえこの頃の出来事は少々考えなくてはならない事が多いのだ。
考える事はもっぱらあの時の緑色の眼の少女の事だ。あの僅かな微笑みが頭から離れない。その後深く酒を飲み、翌日になってもあの微笑みが頭から離れなかった。
「ああ、あれは橋姫ですよ。変わり者です」
そう言ったのは私の屋敷で働く黒谷ヤマメだった。家が近く、よく話すらしい。
「変わり者ってなんだい?」
「あいつは元々人間だったのですよ。それが人を恨みに恨んで妖怪になった、と聞きます。こういう手合いはそういませんからね」
ヤマメはそういうと笑って、でもイイやつですが、とだけ付け加えた。
「ふむぅ。成程」
あの緑眼の妖怪はそれなりに認知されているらしい。どうにも心がざわつく。
欲しい、心で一つ考えがまとまった。
あの笑顔を自分だけのものにしたい。
独り占めにしたい。
そのためには根回しが必要だ。そう考えた私は、ヤマメに留守番を任せ、外に出た。向かうは地霊殿だ。